石の声研究所

その1 『供養の窓』を提案するにあたり

 お墓は住宅のように住み心地、機能的になどと考えて作る方は少ないと思います。それは、日常生活の中にあまり密接ではないからでしょう。
 しかし、本来ならば心の拠り所であるのがお墓です。なぜなら、私達を誕生させ育んでくれた恩義ある方が納めてあるからです。私達の起源は故人です。
 人は死を迎え、お遺骨に姿を変え、ご遺族の手によって壺に納められ丁重に扱われます。生前の故人を思い出しながら送られますが、一度納骨堂に納められれば二度と遺族の目に触れる事のないのがお遺骨です。それでよいのでしょうか。
遺族の心には蘇生を望まないにせよ末路を気遣う気持ちや、永年連れ添った方への思い、また、真っ暗な納骨堂の中に納められた骨壺が倒れ、お遺骨が散乱しているかもしれないなどと悩む方もいると聞きます。
 そこでご遺族が納骨堂の中を見ることが出来るようにしました。それが『供養の窓』シリーズです。高齢者でも簡単に鍵で扉を開けられ、墓参の報告や余生の事、辛い思い、喜びの報告などをする事が出来るのです。そして、子孫には自分の起源が納骨堂内の故人であり、今生きる事の尊さと、何れは自分も行く場所である事を自覚して、悔いのない人生を送って欲しいとの思いからこの考案がうまれました。
 生命を軽んじる現代社会に、生きる事の大切さを投げかける為の事業と捉え、そして生を受けた私達は必ず断末魔を迎えなければならないのです。それを直視する事で、今が大切である事を再認識して日々を悔いなく、そして先人を尊ぶ社会造りにしたい一念で提案しました。

 考案者 深沢よしつぐ

 


その2 自然の力は予知できない

<現在の石積み工法>

●墓地・石塀・神社の玉垣

 墓の外柵工事として行われている工法では、石と石の接続は少量のモルタルに頼っています。その為、石の持つ重量に負けたり、地盤の悪いところであれば目地切れが生じ崩壊し、危険な状態となってしまいます。

●石垣積み

 近年よく見られる石垣積みは、城の石垣とは異なり、現在の石垣に使われる石は小さくなり、その為コンクリート擁壁に石を張った構造となっています。

<異業種に見られる構築物の実情と石工事>

● 木造 ホゾ・カスガイ・はご板・釘等で接続
● 鉄骨 ボルト・リベット・溶接等で接続
● 鉄筋 この工法はいうまでもなく、鉄筋を充分に使い、一体成型となっている

 上記の様に構築物の製作に当っては、安全を計算し施工されておりますが、石工事については、誠に残念ながら今の工法では、モルタルによる接続が主になっている為安定した建墓状態は保てないのが現状です。それでも近年ステンレス製のカスガイ(鎹)を使い接続部の強化を図っていますが。地盤の狂いや凍結による破壊力には歯がたちません。一度狂い始めると構造物の弱いところに力が集中するようになり耐えることは出来ません。
 それではなぜ古来からある石積み・石垣などの石の構造物は永いときを経ているのにもかかわらず崩壊しなのでしょうか。
 それは、自然を理解し、利用し、自然の法則に従っているからです。又、目に見えない部分に巨額の費用と手間を掛けた事があげられます。それでは次に石の使われる場所別に説明をしましょう。

<城の石垣>

図2  城石の秘密、石垣の全ての石は、外側に向かって張り出してはいない。石の重心は必ず内側に落ちようとする動きであり、その力に対し、内側の土・グリ等は外側に崩れようとする力で、バランスが取れているのです。しかし、中には最上の石が張り出している石垣もありますが、石の重心は必ず下の石の重心より前には出ません。又、隅石は井げたの原理が使われており、根石は大きく、上に行くに従い石は小さくなる。(小さいとはいっても現在の間知などとは比較にならない。)
 それでは地下にもぐって見えない所はどうでしょうか。ここにも工夫が凝らされています。まず松丸太を打ち込み胴木をねかし、その上に根石を乗せていく。普通に考えますと丸太で耐えることができるかと思われますが、この丸太、力に対し粘りを発揮、水分を含めば腐敗もせず、といった具合で、その上、絵で見ても分かるように根石の位置は土の中にかなり潜っている。従って、バランスの取れた実に美しい石造物となっています。
 又、どうしても巨石の使えない場合は、ホゾを上手に使い、石の重さを利用します。それが次の柱玉垣、井戸等です。

<柱玉垣の石積み>

図3  神社の境内によく見られる柱玉垣は、古来の工法で作られている物が多く、ホゾ・ホゾ穴を加工して組み立ててあり、石と石を噛み合わせ、一定の距離をもって要の柱でとめていく。柱のホゾは絵のようにテーパーをつけ、石の重さで下へ固定する力、横ずれをホゾでとめる。従って、柱の太さも充分な重量をもたせている。
 現在では、ホゾの加工は工費がかかるのでダボ穴をあけ鉄筋で接続しているものが多い。


<井戸の石積み>

図4  井戸はどうでしょうか。井戸に積まれた石は、ホゾもなく野石などが使われておりますが、一つひとつの石を見ますと、井戸の内側に使う石の面は小さく、外側の土にもぐる面は大きくなるように使われています。井戸の場合、穴の中心へ向かって土砂は崩れようとします。その力を受けて石と石は噛み合うようになって崩れません。
 これに似たものでは、長崎のめがね橋。欧州建築の窓などが見られます。


<身近な墓地・石塀>

図5 図6

 古い時代の墓地施工は石垣にも見られるように、大きな石を使っているにもかかわらず、露出する面、見える部分は少ない。見えない部分の石の重さ、石と石との噛み合う面積が充分にとられており、土の流れ出る力に対し、又どんな環境の中でも耐えられる安全を考え作られてきました。
 しかし、現在の工法はどうでしょう。図に示したように、石は小さくなり、重さ、噛み合わせなど考慮されていません。この背景には、職人の不足・時代の世相ともいえる軽薄短小などがあり、墓地そのものも大きくは作れないことから、現在の施工方法となっています。
 従って、自然の摂理・力の原理を考えない工法へと代わってきました。その無理な施工を何で補うか、それは接着ボンド、或いは、ステンレス板をネジで固定ということで解決しようとしています。しかし,上の図のように,自然の力の方向はまったくこれらの工法を無視しています。モルタルにしても、据えた後、裏側の接続部へモルタルを塗りつけるが、このモルタルは凝固すると共に凝縮する。その時に石とモルタルとは縁が切れてしまいます。
 ではなぜ30年も40年も狂わない墓地があるのでしょう。それは、墓地の地盤が安定していて充分な硬さがあるか。地盤を充分天圧し、上部に据える石材(場合によっては10トン以上の重量)に耐えられる基礎が備わっているからでしょう。又、据える石と石の接続モルタルが 充分な接着効果を発揮したときにこそ目地切れの起こらない石の構造物になります。この様に、自然の状態で上下の力さえ加えなければ、石の重さで崩壊はしません。しかし、地盤の狂い、地震のような条件が加わると話は別となります。地震によく見られる液状化現象のように、条件によっては土が流体に変わり、墓の外柵に対し、中の土砂が外に押し流そうとする力が働けば、在来工法ではどんなに施工状況がよくても崩壊してしまいます。
 墓石の崩壊もさることながら、石塀の崩壊は危険の頻度が全く違います。このような現状の工法ではよくないと思いますが、請負金額・利益、又は石工としての固定観念で、あまり業者間では問題にしませんでした。
 また、いくら古来の工法が良いからとはいっても、墓地の条件・予算を考えるにつけ出来るものではありません。
 そこで、石の声が開発の結果、「強壁」が誕生しました。

<「強壁」>

図7図8
 そこで墓地全体を一つの升のようにしました。これが「強壁」の始まりです。この「強壁」は角石を使わず、外側を1寸ないし2寸5分の石板で枠板にする。天板と立ち板をループ形の鉄筋でつないだのが「強壁」です。この「強壁」を現場(墓地)へ運び、捨てコンを打ち、横鉄筋、縦鉄筋を刺し、「強壁」の板の間へ鉄筋をとおして「強壁」を据えます。据えた「強壁」の中へ鉄筋を鉢巻きのように回し、コンクリートを打ちこみます。この工法で製作しますと墓地全体を吊り上げることもできます。
 もう、お分かりと思いますが、この「強壁」の墓地では、目地切れも起きません。この強度を理解していただければ、安心して石塀にも使っていただけるものと思います。
 この「強壁」により、工費も在来工法より安くなり、表面が石ですから、コンクリート、大谷石、ブロックのように風化もせず、自然の美しさが得られます。しかし、なんと言っても墓地の場合であれば、ご先祖様の霊所であり、石塀に至っては不特定多数の人の往来があり、いずれも、もしも、という間違いの許されない場所であります。安心できる工法で、納得のいくまで私共の企画を御検討願えれば幸いかと存じます。